横浜市・関内駅から徒歩5分ほど、ビジネス街のビルの一角。2017年11月に企業主導型保育施設「ピクニックナーサリー」が開園した。
さまざまな人が行き交い賑わう「関内桜通り」を歩いていくと、まちづくり活動の事務所や建築家、デザイナーなど、横浜のクリエーターの拠点「泰生ビル」が見えてきた。保育園はこの5階にある。
「ピクニックナーサリー」の代表・後藤清子さんが迎えてくれた。部屋の中には明るい日差しがたっぷりと差し込み、床には杉の間伐材無垢が敷かれている。エアコンに頼らず過ごせる工夫が施され、子どもたちは素足で元気に遊んでいた。
横浜市・中区
企業主導型保育施設「ピクニックナーサリー」
対象年齢:0歳(生後57日)~3歳児
定員:10名
親が子どもと離れて、ひと息つく場所の必要性
後藤さんが保育園開設への思いを持ったのは、2016年10月に同ビルで子育て広場「カドウエママピクニックルーム」を開所したことがきっかけだ。
レンタルルームとして使用していた部屋を、オーナーさんのご厚意で借りることができた。この部屋で子育て中のお母さんがのんびりできる居場所をつくれないか。後藤さん自身も小学生2人の子どもがいる母親だ。親子で一緒に遊べる場所はあるが、親が子どもと離れて、ホッとひと息つく場所が必要だと感じていた。

子育て広場「カドウエママピクニックルーム」は最大3時間利用でき、ワンドリンク付きで500円。ワンコインとは言え、お金を払っても利用したいという親子が続々と訪れた。同じ部屋にいる保育者に子どもを任せて、母親がゆっくり足を伸ばして読書をしたり、パソコンをしたり、思い思いの時間を過ごす。
「お母さんがリラックスすると、子どももリラックスする。はじめて訪れた子も不思議と場所見知りする子はいなかった。子どもは母親の存在を確かめると、また保育者のところに戻り、遊びこむ姿が見られた」と当時の様子を教えてくれた。

子育て広場を利用している母親の中には、それぞれの思いや、事情があって一旦仕事から離れた人も多かった。「出産、子育てを機に仕事から離れたが、子どもを育てながらまた働きたい」という声が聞かれた。待機児童問題の側面から、求職中での保育園入園は厳しいのが現状だ。
後藤さんは子育て支援を含め、母親たちの望みを何とかカタチにできないかと様々な制度を調べた。そして、認可外だが国から助成金が受けられる「企業主導型保育事業」の制度を活用して「ピクニックナーサリー」を開園するに至った。


親子で一緒に勤務できる環境
「ピクニックナーサリー」の特徴は、子どもと一緒に勤務できる環境だ。企業主導型保育施設では定員の一部に従業員枠が設けられている。母親は園の従業員して働き、従業員枠を活用して子どもを通わせることができる。また、通常の保育園と同様に地域の人にも定員枠を開放している。
「子育てで一度現場を離れ、ブランクのある保育士や保育士をめざす母親には、まずはここで自信をつけて欲しい。経験のある管谷のもとで実践しながら学び、自信をつけるにはとてもいい環境。少人数の保育園だからこそできること」と後藤さん。
「ここで経験を積んで、ゆくゆくは自分の理想とする保育園や規模の大きい保育園に羽ばたいて欲しい」と管谷さんは言う。

保育士不足が大きな社会問題になっている中で、保育士が働く環境にはさまざまな課題が山積みだ。資格を持っていても保育園で働いていない潜在保育士は全国で80万人近くいるとされている。
ブランクを経て仕事を再開するのは不安が募るもの。保育士は子どもの命を預かる仕事。重圧ははかりしれない。多様な働き方や丁寧な実践のサポート体制が、一度現場を離れた保育士の不安を取り除き、自信にもつながるはずだ。
子育て広場を地域にひらき、母親たちの心に寄り添い、耳を傾けてきた。その母親の声こそが後藤さんと管谷さんの原動力だ。母親たちが自己実現に向かえる環境をバックアップしていく。
内閣府 企業主導型保育施設「ピクニックナーサリー」
10名以下の小規模保育施設。好奇心いっぱい元気に遊ぶ子ども、絵本と音楽の大好きな子どもが育つ保育園を目指す。異年齢児が兄弟姉妹のように育ち、少人数で家庭のようなきめ細かな保育を実践。通常保育の他に一時保育、親子の広場としても機能しながら、お子さんを持つ全てのママに安心して、名前の通り”ピクニックのようなワクワクした感覚で登園できる環境です。
住所:横浜市中区相生町3-61 泰生ビル507
アクセス:JR関内駅・みなとみらい線馬車道駅より徒歩5分
ホームページ:http://picnic.yokohama/
運営法人:株式会社ピクニックルーム
園長:管谷章世(NPO法人家庭的保育全国連絡協議会理事)
(2018/04/11 テキスト・写真:柴山和代)