子どもも親も育ち合いで、育児と“はたらく”を豊かに

都心から電車で約1時間。東京都の西に位置する青梅市は、近くに多摩川が流れ、高く澄んだ空気と豊かな緑が広がっている。そこに移り住み、0歳から参加できる自然体験の場「かぷかぷ山のようちえん」を立ち上げた保育士がいる。

かぷかぷ山のようちえん代表の小川かなえさん
小川かなえさん。大学では探検部に所属し、卒業後は食品メーカーに就職。将来は子どもたちの居場所づくりがしたいと、会社につとめながら保育士免許を取得した。会社員を辞め、自然保育をする森のようちえんスタイルの保育園で保育士として働いたのち、「かぷかぷ山のようちえん」の活動をはじめた。

 

「かぷかぷ山のようちえん」とは

自然豊かな青梅をフィールドに、0歳から参加できる親子の自然体験の場。おたまじゃくし組は毎週月曜日と木曜日に開催。のんびりと自然あそびができるコース。どんぐり組は土曜日開催。家族みんなで参加ができ、季節ごとに山を歩くコース。自然の中であそぶ体験を積みかさねながら、“楽しい”を自らつくりだせる子どもたちを育て、親子の絆を育むことを目的としている。

保育園だけではない保育士の働き方

横浜市から青梅市に移り住み、産後5か月からこの活動をはじめた。

「保育園では、とても充実した日々を過ごしていました。かぷかぷ山のようちえんを立ち上げたきっかけは双子を授かったことでした。はじめての育児で双子ということもあり、無理なく両立できる道をさがしました。保育園に復職する選択肢もありましたが、自分の子どもたちと一緒に温めてきた想いをかたちにするチャンスだと思い、この活動をはじめました」

オリンパスデジタルカメラ
最寄り駅から車で5分ほどでついた「青梅の森」。かつては大規模住宅開発が計画されていた場所だが、今はその緑を保全し、市民の大切な財産になっている。若葉のつややかな緑がどこまでもつづく。 最寄り駅から車で5分ほどでついた「青梅の森」。かつては大規模住宅開発が計画されていた場所だが、今はその緑を保全し、市民の大切な財産になっている。若葉のつややかな緑がどこまでもつづく。
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本日のおたまじゃくし組は4組の親子が参加。0歳児3名と誕生日を迎えたばかりの1歳児が参加。子どもを抱っこして、ゆっくりと、のんびりと、森の中を探索。新緑の香り、樹木や草花の感触、キツツキのドラミングの音色、そして夏鳥のさえずり。親も子も五感で楽しんでいる。

肌で感じた自然の中での子どもの育ち

自然保育の保育士経験から、自然の中であそぶ子どもたちの成長の著しさは、肌身で感じている。

「自然には、子どもが自由にあそびを深めることができる懐があります。子ども自身で自分の力量に合わせたあそびを見つけ、ためらいながらも一歩ずつチャレンジできる環境です。遊具は誰でも安全にあそぶことができるようにつくられていますが、自然はそうはいきません。だからこそ、やりたい気持ちもぐんぐん伸びていく。そして、自然でのあそびを通してあらわれる個性が、子ども同士の関わりの中で、より伸長される循環がうまれると実感しました」

その一方で、自分が親になって感じたことがある。

「子どもを連れて自然の中に行くのは、不安がいっぱいだということ。荷物が多い、ぐずったらどうしよう、歩けないかもしれない…など。親が一歩を踏み出すには、知識とともにサポートが必要だと思ったのです」

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「いきなり自然の中へ飛び出すのはちょっと不安」という親の声を聞き、2~3か月に一度、かぷかぷ山のようちえんに興味を持った方へのはじめての場として「かぷかぷ山のようちえんカフェ」を開催している。カフェの2階を借りて、自然にまつわる手あそび・紙芝居などをしながら、自然体験活動の中で大事にしていることを丁寧に伝えている。

 

子どもや親の居場所の選択肢が増えればいい

想いをかたちにするため、一歩を踏み出した小川さんに今後のことについてたずねてみた。まだ構想段階だということだが、これからの展望を聞かせてくれた。

「子どもや親の居場所の選択肢を、地域に増やしたいと考えています。子どものすぐそばで日々の成長を見守りたいと願う働く親がいるかもしれない。フルで働くことは難しいが、社会とつながりたいと思う親もいるかもしれない。保育園に入る、入れないだけでなく、子どもの育ちを考え、家族ごとのライフスタイルに合わせた子育てと働く場があってもいいのでは」

そのような考えから、親子で集えるコワーキングスペースをつくる構想がうかんだ。仕事をする横では子どもを預け合い、見守りながら働く日もあれば、親子で一緒に自然体験に参加できる日があってもいい。もっと豊かに、もっと自由に、育児と“はたらく”が選択できる場をつくりたいと教えてくれた。

 

出会いやつながりをあたためている

まずは、一緒に運営や活動をサポートしてくれる人との出会いをあたためているところだ。

「自然体験に参加した人が共感して、つながりをもってくれたらすごくうれしいですし、将来保育士をめざす学生にも、この活動が伝わってほしいです。仲間とともに自然の中でのあそびの環境を一緒に考えていけたらいいですね」

場づくり、仲間づくりは、はじまったばかり。だがその先には、かぷかぷ笑いながら、育児も仕事も楽しんでいる地域の親子の姿が、小川さんの未来図にはしっかりと描かれている。

 

オリンパスデジタルカメラ

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「この子たちの“ふるさと”になる青梅の自然を、たくさん体験することができてうれしい」「親にとっても、定期的に自然の中に出られることでリラックスできる」「0歳から草むらでハイハイできることが楽しい」活動を終えて、こんな感想が聞こえてきた。

 

かぷかぷ山のようちえん

都心からアクセスがよく自然豊かな青梅をフィールドに、0歳から参加できる親子の自然体験の場。自然の中であそぶ体験を積みかさね、“楽しい”を自らつくりだせる子どもたちを育て、親子の絆を育むことをめざしている。NPO法人化予定。
ホームページ: http://www.capucapu-nature-school.com/
活動レポート: http://www.capucapu-nature-school.com/report
Facebook: https://www.facebook.com/capucapu.mountain.school/

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大事にしていること

楽しいをつくるちからは山で育つ     

あそび方の決まっていない、同じものがひとつとない、山の自然。通い続けることで、慣れ親しみ、自ら楽しむ力が湧いてきます。

0歳から、やがてふるさととなる自然に親しむ 

子どもたちは楽しみ、触れ、聞き、育っていくなかで、自分のふるさとをつくっていきます。ママたちは自然に癒され、子育てがラクになる体力をつけながら息の長い子育てを自然の中で楽しんでいきます。

「信じて待つ」子育ての仲間、場づくり

 毎週一緒に山を歩く親子。同じ時間を過ごす仲間。もうひとつの家族のように、「信じて待つ」子育てを一緒にできる。一緒に育てる。これから先も、子育てをこえて、支えあっていける仲間になっていきます。

 

(2017年5月17日公開 取材・文:柴山和代)